一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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生理食塩水と胡蝶蘭

質問者:   会社員   やま
登録番号0788   登録日:2006-06-16
最近,ナノサイズの気泡を溶かしたという水のデモンストレーションで,淡水魚,海水魚,胡蝶蘭をひとつの水槽に展示しているのを見ました.
淡水魚と海水魚の生理食塩水の濃度が大体同じで,それ位の塩濃度の水溶液なら同居可能であることは知っています.
胡蝶蘭がこの水槽で元気に咲いているのもこれと同じ理由と考えられますか?
ちなみに溶けている気泡は酸素らしいのですが,これも関係あるんでしょうか?

やま さま

 河川の河口や浜名湖、宍道湖のようないわゆる汽水域をもつ湖では、魚の種にもよりますが、ご質問にありますように、また魚についての専門家にお聞きしても、淡水魚、海水魚が汽水域で共に生存しているのは一般的です。ただ、汽水域の平均塩(食塩)濃度は海水の塩濃度、約2.9%、より低いとしても、汽水域でも塩濃度が高く比重が大きい海水が底に、汽水が上層に分布する様になっていて、魚がそれぞれに適した層に棲み分けていることもありうるでしょう。
ところでご質問にあります、展示されていた水槽でその中の水が攪拌されていたとすれば(魚が泳げば攪拌される)、比重による塩濃度の異なる層分離は余り考えられないでしょう。とすれば、この時、海水の塩濃度がどの程度になっていたかが、胡蝶蘭のような植物がその中で生存できるかどうかに大きく関係します。展示してあった水槽の塩濃度が汽水域の常識的な塩濃度である〜1%とすれば、イネのように塩に耐性の低い植物は枯死します。しかし、農業用水として塩濃度が0.3%(海水の約10分の1の濃度)まで認められていることからみて、大部分の農作物の生育にとって、0.3%程度の塩濃度は特に問題にならないと考えてよいでしょう(本質問コーナーの登録番号0484、登録番号0578に対する回答参照)。胡蝶蘭がどの程度の耐塩性をもっているかわかりませんが、植物は種によって耐塩性が異なり、テンサイのような植物は塩濃度1%にしても生育が少し抑えられるだけで、枯死することはありません。また、農作物に低濃度の塩を施用することも行われています(本質問コーナーの登録番号0582に対する回答参照)。

以上は(魚の呼吸に必要な酸素が溶けている)普通の水に塩が含まれている場合について考えてきましたが、ご質問の酸素ミニバブル水の中ではどうかについて、酸素ミニバブル水(または酸素ナノバブル水)を開発して来られた産業技術総合研究所・環境管理技術研究部門・環境流体工学研究グループ,主任研究員 高橋 正好 氏にお尋ねしました。
展示されていた水槽の中で、胡蝶蘭はキチジ(深海魚)、アユ、イワナが泳いでいる塩濃度3%の酸素ミニバブル水のなかで数週間、花を咲かせられるとのことです。現在のところ、どのような機構で海水に相当する塩濃度を含む酸素ミニバブル水の中で、胡蝶蘭が塩ストレスを受けないのかについては解明されていませんが、酸素ミニバブル水でなければこの塩濃度で胡蝶蘭は1日で枯れるとのことです。
従って、胡蝶蘭に対する塩ストレスだけを考えれば、少なくとも塩の実効濃度(イオン強度)が酸素ミニバブル水では低くなっている可能性があります。酸素を含む泡がミニバブルの状態(直径が〜0.2μm以下)になると泡の寿命が数ヶ月程度まで長くなります。さらに、これら超微細気泡がマイナスの表面電荷をもつようになり、水に溶けているカチオンを結合できるようになります。しかし、この植物がミニバブル酸素水の中で示すこの不思議な現象の解明は、ミニバブル酸素水の性質のさらなる解明と共に、これからの興味ある研究課題です。

高橋 正好(産業技術総合研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2012-08-25
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