一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物のシグナルについて

質問者:   大学生   たっくん
登録番号0789   登録日:2006-06-16
植物個体の地上部と地下部のバランスを司るシグナルって何でしょうか?
お待たせしました。植物の地上部、地下部との情報連絡を研究されている理化学研究所 植物科学研究センターの榊原 均先生に回答をお願いし、以下のような解説を頂きました。たいへん難しい質問ですので回答は簡単ではありませんのでじっくりと読んで理解してください。


たっくん様

ご質問ありがとうございます。
植物個体の地上部と地下部のバランスを司るシグナルについての質問ですね。植物生長制御の本質に関わる重要な質問だと思います。
 地上部と地下部のバランスといっても、成長速度のバランスや、各部位でおこる代謝反応の活性バランス、蓄積物質の量的バランスなど、いろいろな捉え方があると思います。現在のところ、これら個々の事象のバランス維持を司るシグナルについてはまだ詳しく解明されておりませんし、各事象は互いに関連し合っていると考えられますので、ここではそれら全体を捉えた議論をさせて頂きます。
 植物は根で土壌中からの栄養を吸収し、地上部の葉(光合成細胞)で光エネルギーを捉え、光合成により有機体に変換します。光合成同化産物は原形質連絡や篩管などを介して他の器官へと輸送され利用されます。また、植物は時間軸に沿って形態的にも成長して大きくなります。この過程で、植物は各自がおかれた環境条件下において少しでも効率の良い養分吸収や光合成ができるように、地上部と地下部の形態や、代謝反応のバランスを調節していると考えられています。地上部や地下部が全く独立に調節されていては、個体としてのバランスを保つことが出来ないため、環境適応が十分に出来ず、他との生存競争に負けてしまうからです。
 そのためには地上部と地下部の間で何らかの情報のやりとりを行う必要があります。では地下部と地上部ではどのような物が往き来しているのでしょうか?地下部からは根から吸収した様々な無機栄養類などが道管を通って地上部に運ばれていますし、地上部からは光合成産物であるショ糖やアミノ酸類が篩管を通って地上部の若い組織や地下部に運ばれます。また無機イオンや同化産物だけではなく、細胞の分化をコントロールする植物ホルモンも根や葉で合成され、上下双方向に輸送されていることが知られています。現在ではこれらの輸送物質のいくつかが、代謝反応に利用される「基質化合物」としての役割に加え、地上部と地下部を結ぶ「情報」としての役割を担っていると考えられています。実際に植物の遺伝子の中には、硝酸イオンや硫酸イオン、ショ糖などによってコントロールを受けるものがあることが明らかにされていますし、サイトカイニンなどの植物ホルモンの合成が、無機栄養によってコントロールされていることも明らかにされています。これらの情報物質が複合的に働くことで地上部と地下部の間の情報交換を行い、両者のバランスを適切に保っているものと思われます。
 このように植物生長の本質に関わる問題についてもまだまだわかっていないことがたくさんあります。道管や篩管の中をどのような物質が移動しているのか、その物質がどのような遺伝子に影響を与えるのかを教科書や文献などで是非調べてみてください。

榊原 均(理化学研究所 植物科学研究センター)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-06-27
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