一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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水ストレスについて

質問者:   その他   岩下
登録番号0792   登録日:2006-06-17
トマトなどの作物に水ストレスを与えてやると高糖度なものができるということなのですが、水ストレスを与えた際に植物体内での含水率(水分含有量)というのはどのくらい変化するものなのでしょうか?
数十%も変化するのかほとんど変化しないのか教えて頂きたいです。よろしくお願いします。
岩下 様

 トマトが水ストレスを受けたとき、果実や植物体の水含量がどの程度になるかについてのご質問ですが、これは当然のことながら水ストレスの程度によっても大きく変動します。トマトの栽培について長く研究を続けておられる農業・食品産業技術総合研究機構―野菜茶業研究所の中野 有加 氏から、その測定法を含め、詳しい解説を頂きましたのでご覧下さい。なお、植物の水ストレス、これと密接な関係をもつ塩ストレス、塩の施用などについて本質問コーナーの登録番号0089, 登録番号0120, 登録番号0178, 登録番号0484, 登録番号0578の回答に解説がありますので、それらも参考にして下さい。今は質問番号から回答を探し出すのが少し面倒ですが、質問登録番号から回答が簡単に見られるようホームページを改良中です。


トマトの果実については、水が普通に与えられた場合、糖度は6でありその含水率は94%です。これに水ストレスを与えますとご質問にありますように糖度が7、10に上昇し、そのトマトの含水率は、それぞれ93%、89%になります(Sakamoto, et al., 1999)。

 果実に比べ、葉は最も水ストレスの影響を受けやすい器官です。葉の水ストレスのレベルは含水率の他に、葉内水分不足度(水欠差,Water Saturation Deficit: W.S.D.)でも示されています。W.S.D.は次のようにして測定します。採取した葉の生体重を測定後、容器内で葉柄を水に挿し、一定時間充分に吸水させて、(これ以上、水を吸収できない)完全膨圧時の重量を測定。次いで葉を乾燥させ、乾物重量を測定。
W.S.D.=100 -[(生体重-乾物重量)/(完全膨圧時の重量-乾物重量)] × 100
W.S.D.に比べ容易に、精度よく直ちに測定できる水ポテンシャルは植物の水分保持力を示す数値です。プレッシャーチャンバーで測定する場合、葉柄部または茎だけを外へ出して葉を加圧できる容器に入れ、圧搾空気をチャンバー内に導入し、徐々に加圧していきます。葉柄の導管の部分から、水が噴出してくるときの圧を読み取り、この圧の符号を逆にすれば水ポテンシャルとなります。単位はPa(パスカル)であり、水の化学ポテンシャル(J/mol)を水の部分モル体積量(m3/mol)で割った熱力学エネルギーと定義されています。
それぞれの単位で示したトマト葉に対する水ストレスの影響は以下の通りです。

特に水ストレスを与えなくともトマトの葉内の含水率は日変化し、早朝の85%から正午頃を最低(81%)とし、夕方には再び85%に上昇します。午後も日照が強く高温の時には、正午から低い葉内水分のまま夕方まで持続します。この場合、外観上しおれませんが、光合成は低下します(伊東(1971))。
水ストレスを与えないトマトの葉のW.S.D.が7〜15%であるのに対し、水ストレスを与えたトマトのW.S.D.は、(葉がしおれて回復できない)永久萎凋時に、34%になります(荒木・五島(1985))。
 葉の水ポテンシャルは、水ストレスを与えないトマトでは-0.5〜-0.7 MPa(Mはメガ、X 106)であるのに対し、水ストレスを与えた場合、-1.5 MPaまで変化します。水ポテンシャルの低下の程度は、耐乾性の大きい品種の方が小さく、水ストレスから早く回復します(縄田ら(1999))。

詳細については以下の文献を参照して下さい。
・Sakamoto, Y. et al. Effects of salinity at two ripening stages on the fruit quality of single-truss tomato grown in hydroponics. J. Hort. Sci. Biotech. 74: 690-693 (1999)
・荒木陽一,五島 康.水分ストレスがトマトの生育と養水分吸収に及ぼす影響.野菜試報,A13:71-84 (1985)
・伊東 正.そ菜の光合成特性とその栽培的意義(第2報)トマト苗の光合成速度の日変化に及ぼす内,外諸要因,特に葉内水分,澱粉含量の影響.園学雑40:41-47(1971)
・縄田栄治,桜谷哲夫,Lutfor Rahman, S.M. トマト4品種の生育,収量および生理生態的特性に及ぼす水ストレスの影響.園学雑68:499-504(1999)

中野 有加(農業・食品産業技術総合研究機構―野菜茶業研究所 高収益施設野菜研究チーム)
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2012-08-25
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