質問者:
その他
盛田
登録番号0833
登録日:2006-06-29
タイトルの通りなのですが、自家受粉を防ぎ、他家受粉をどうやって行うのでしょうか?みんなのひろば
自家受粉を防ぎ他家受粉をする仕組み
くわしく教えて下さい
盛田 さん:
植物における自家受粉を回避する仕組みに関するご質問は、この分野を専門に研究しておられる奈良先端科学技術大学院大学の磯貝 彰先生にご回答をお願いしました。
以下のような詳しい解説を頂きました。かなり専門的な内容を含んでいますが「学生」で、このような質問をされるとすると基礎遺伝学の知識は十分お持ちと思いますのでご理解いただけると思います。
回答
動物でも植物でも、自分自身だけでは子孫を作らないというのが、有性生殖の基本です。有性生殖って何だ(何のためにある?)というのは、またひとつ大きな問題ですが、今回は省略します。動物では(特に高等な動物では)、雄と雌があるので自分自身だけでは子孫を作ることは出来ません。しかし、植物を見るといろいろな植物がありいろんな花があります。動物のように単に雄と雌が違う個体であるというのは少ないものです。そこで、まず、自家受粉を防ぐ仕組みを大まかに整理してみます。その上で、自家不和合性というキーワードについて説明することにします。
1.植物が自家受粉を防ぐ仕組みはいくつか知られている。
(1) 雌雄異株、雌雄異花の植物は、雄花と雌花を別々に作ることによって自殖を防ぎ他殖を促進しています。雌雄異株は雄株と雌株があるもので、イチョウ、ホウレンソウなどがあり、動物の例に似ています。雌雄異花は、同じ株の中に雄花と雌花があるもので、スギやキュウリなどがそれにあたります。
(2)雌雄異熟という性質を持つ植物があます。これは、ひとつの花の中に雄蘂と雌蘂があります(これを両性花という)が、雄蕊と雌蕊の成熟する時期をずらすで他殖の可能性を高めるものです。例えば、キキョウやリンドウなどは、花粉が先に成熟しますが、この時期には同じ花の中の雌蕊は未熟なままで、花粉は虫や風に運ばれて他の花の成熟している雌蕊に付着します。雌蕊が成熟している花では、その花粉は既になくなっていることになります。
(3)植物の花の殆どは両性花で自家受粉してしまう花は相当数知られています。栽培イネなどは、自分の花粉で受精します。だから、とれたイネを蒔けば、同じイネが実ることになります。しかし、おおくの両性花には基本的に、自家受精しない仕組みがあります。それを、自家不和合性と呼んでいます。
2.自家不和合性って、何? 盛田さんはこれだけを聞きたかったのかもしれませんが、自家不和合性について、今までに分かってきたことを書いてみます。少々専門的すぎるかもしれませんし、あるいは、こうした事を将来勉強したいと思っている人だったら、これでも、まだ不十分ということかもしれません。もし後者なら、専門的な本や、論文を紹介しましょう。自家不和合性も、実は1つの仕組みだけではなく、幾つかのタイプがあるのです。以下に書くことは、そのうち最もよく分かっていて、多くの研究があるものす。分かっていない話も一杯あることも知っておいてください。
自家不和合性は、自己の花粉と他系統の花粉を雌蕊が見分け、自己の花粉を拒絶する仕組みです。この仕組みは多くの場合、多数の複対立遺伝子を持つ1つの遺伝子座(S遺伝子座と呼ばれる)によって制御されています。この染色体領域には少なくとも2つの遺伝子(花粉で働く認識物質と雌蕊で働く認識物質を作り出す遺伝子)があり、これらが自己/非自己の認識に関わっていると考えられています。これらの複対立遺伝子のそれぞれのセットはSハプロタイプと呼ばれ、雌蕊と花粉が同じSハプロタイプの雌蕊側認識物質と花粉側認識物質をそれぞれ発現すると、花粉管の拒絶が起こると予測されるものです。
アブラナでは、雌蕊側認識物質は受容体型キナーゼ(SRK)で、花粉側認識物質はシステインに富む低分子量タンパク質(SP11)であることが知られています。これらのタンパク質はSハプロタイプ特異的な多型性を示し、同一Sハプロタイプに由来するSP11とSRKは特異的に結合し、SP11と結合したSRKは自己リン酸化することが明らかにされています。この雌蕊において誘導されるSRKリン酸化反応が、自家受粉によって花粉拒絶反応に至る細胞内シグナルになっていることが予測されています。
また、ウメやペチュニアでは、雌蕊側認識物質はRNA分解酵素(S-RNase)で、花粉側認識物質はF-boxモチーフを持つタンパク質(SLF)であることが知られています。F-boxモチーフを持つタンパク質は、特定のタンパク質の認識とその分解に関わっていることから、自己花粉のRNAがS-RNaseで分解され、花粉管成長は停止します。他家花粉はSLFを介してS-RNaseを分解して花粉管成長の停止を回避していると予測されています。
ケシ科植物では、低分子量タンパク質の雌蕊側認識物質(S-protein)が同定されており、同一Sハプロタイプを持つ花粉管にアポトーシス(細胞が死ぬこと)を誘導することが示されている。
磯貝 彰(奈良先端科学技術大学院大学)
植物における自家受粉を回避する仕組みに関するご質問は、この分野を専門に研究しておられる奈良先端科学技術大学院大学の磯貝 彰先生にご回答をお願いしました。
以下のような詳しい解説を頂きました。かなり専門的な内容を含んでいますが「学生」で、このような質問をされるとすると基礎遺伝学の知識は十分お持ちと思いますのでご理解いただけると思います。
回答
動物でも植物でも、自分自身だけでは子孫を作らないというのが、有性生殖の基本です。有性生殖って何だ(何のためにある?)というのは、またひとつ大きな問題ですが、今回は省略します。動物では(特に高等な動物では)、雄と雌があるので自分自身だけでは子孫を作ることは出来ません。しかし、植物を見るといろいろな植物がありいろんな花があります。動物のように単に雄と雌が違う個体であるというのは少ないものです。そこで、まず、自家受粉を防ぐ仕組みを大まかに整理してみます。その上で、自家不和合性というキーワードについて説明することにします。
1.植物が自家受粉を防ぐ仕組みはいくつか知られている。
(1) 雌雄異株、雌雄異花の植物は、雄花と雌花を別々に作ることによって自殖を防ぎ他殖を促進しています。雌雄異株は雄株と雌株があるもので、イチョウ、ホウレンソウなどがあり、動物の例に似ています。雌雄異花は、同じ株の中に雄花と雌花があるもので、スギやキュウリなどがそれにあたります。
(2)雌雄異熟という性質を持つ植物があます。これは、ひとつの花の中に雄蘂と雌蘂があります(これを両性花という)が、雄蕊と雌蕊の成熟する時期をずらすで他殖の可能性を高めるものです。例えば、キキョウやリンドウなどは、花粉が先に成熟しますが、この時期には同じ花の中の雌蕊は未熟なままで、花粉は虫や風に運ばれて他の花の成熟している雌蕊に付着します。雌蕊が成熟している花では、その花粉は既になくなっていることになります。
(3)植物の花の殆どは両性花で自家受粉してしまう花は相当数知られています。栽培イネなどは、自分の花粉で受精します。だから、とれたイネを蒔けば、同じイネが実ることになります。しかし、おおくの両性花には基本的に、自家受精しない仕組みがあります。それを、自家不和合性と呼んでいます。
2.自家不和合性って、何? 盛田さんはこれだけを聞きたかったのかもしれませんが、自家不和合性について、今までに分かってきたことを書いてみます。少々専門的すぎるかもしれませんし、あるいは、こうした事を将来勉強したいと思っている人だったら、これでも、まだ不十分ということかもしれません。もし後者なら、専門的な本や、論文を紹介しましょう。自家不和合性も、実は1つの仕組みだけではなく、幾つかのタイプがあるのです。以下に書くことは、そのうち最もよく分かっていて、多くの研究があるものす。分かっていない話も一杯あることも知っておいてください。
自家不和合性は、自己の花粉と他系統の花粉を雌蕊が見分け、自己の花粉を拒絶する仕組みです。この仕組みは多くの場合、多数の複対立遺伝子を持つ1つの遺伝子座(S遺伝子座と呼ばれる)によって制御されています。この染色体領域には少なくとも2つの遺伝子(花粉で働く認識物質と雌蕊で働く認識物質を作り出す遺伝子)があり、これらが自己/非自己の認識に関わっていると考えられています。これらの複対立遺伝子のそれぞれのセットはSハプロタイプと呼ばれ、雌蕊と花粉が同じSハプロタイプの雌蕊側認識物質と花粉側認識物質をそれぞれ発現すると、花粉管の拒絶が起こると予測されるものです。
アブラナでは、雌蕊側認識物質は受容体型キナーゼ(SRK)で、花粉側認識物質はシステインに富む低分子量タンパク質(SP11)であることが知られています。これらのタンパク質はSハプロタイプ特異的な多型性を示し、同一Sハプロタイプに由来するSP11とSRKは特異的に結合し、SP11と結合したSRKは自己リン酸化することが明らかにされています。この雌蕊において誘導されるSRKリン酸化反応が、自家受粉によって花粉拒絶反応に至る細胞内シグナルになっていることが予測されています。
また、ウメやペチュニアでは、雌蕊側認識物質はRNA分解酵素(S-RNase)で、花粉側認識物質はF-boxモチーフを持つタンパク質(SLF)であることが知られています。F-boxモチーフを持つタンパク質は、特定のタンパク質の認識とその分解に関わっていることから、自己花粉のRNAがS-RNaseで分解され、花粉管成長は停止します。他家花粉はSLFを介してS-RNaseを分解して花粉管成長の停止を回避していると予測されています。
ケシ科植物では、低分子量タンパク質の雌蕊側認識物質(S-protein)が同定されており、同一Sハプロタイプを持つ花粉管にアポトーシス(細胞が死ぬこと)を誘導することが示されている。
磯貝 彰(奈良先端科学技術大学院大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-07-04
今関 英雅
回答日:2006-07-04