一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物の温度について

質問者:   その他   しほ
登録番号0841   登録日:2006-07-01
学校の調べ学習で植物のことを調べています。それで、次のことを調べています。

植物には温度管理ができるのか?

日光を当てるだけの時と条件を変えて変化があるのか温度計で計ってみます。
水をあげたり、葉っぱにアルミホイルをかぶせたりして条件を変えます。
これで変化した場合、植物の温度管理と言ってもいいのでしょうか?
それとも別の科学的な問題なんでしょうか?
しほ さん

ヒトの体温は健康であればほぼ一定に保たれていて、これが2〜3度Cでも変化すると体の調子がわるいと大騒ぎをします。植物も体温(葉温)をできるだけ一定に保つ機能をもっていますが、これによって保つことのできる温度の幅はヒトに比べるとそんなに狭くはありません。例えば、昼間と夜間では気温差(10度C以上)がありますが、植物は昼も夜も葉の温度を一定にできるほどきちっとした調節はできません。植物は太陽の光エネルギーを使い、光合成によって成長するため、枝や葉で表面積を広げ太陽の光をできるだけ受け入れられやすい形をしています(もし、ヒトが毎日の生活に必要なエネルギーを光合成だけによって得るためには20平方メートル以上の表面積が必要です!)。これだけ周りの温度の影響を受けやすい薄い葉をヒトの体のようにきちっと狭い温度範囲にすることはできません。しかし、昼間、光合成のために太陽光をあびると、太陽光の半分を占め、光合成には直接に役立たない赤外線(熱線)は葉の温度を高め、また、光合成に役立つ可視光線も、光合成の多くの反応の間に熱になり、光合成が最も効率よく進行しても太陽光エネルギーの88%は熱になってしまいます。農地に生えている植物でもいろいろなストレスがあるため、普通は、95%以上が熱になってしまいます。そのため、太陽光を浴びて葉の温度が上がり過ぎないように蒸散作用によって葉温を調節しています。
葉の温度の解析から、植物で二酸化炭素(CO2)応答性に関与している蛋白質を発見され、この蛋白質の性質について研究を続けておられる、九州大学・理学府・博士研究員の橋本 美海 博士から、測定法を含め植物の葉温について詳しい解説を頂きましたのでご覧下さい。


ご質問の内容は、”植物は葉温を一定に保つ機能をもっているか?“があるかどうか”ということだと思います。
植物に太陽光が照射されると、太陽光の中に含まれる赤外線が吸収されて葉の温度が高くなり、光合成に利用される可視光線も熱になって失われる割合が高いため、これも葉の温度を上昇させます。しかし、植物の葉の(主として裏側)表面には気孔という孔があって、光を感知すると気孔が開き、植物体内から水分を放出します(蒸散)。水蒸気が出て行くとき、気化熱が奪われるので(汗をかくと体温が下がるのと同じ原理で)、葉の温度を低下させています。
このような作用、蒸散作用、によって、植物は太陽光による葉温の上がり過ぎを防ぎ、できるだけ一定に保つ働きをしています。

これを実験的に証明するには次のような方法によって行います。
1. 同じくらいの光が当たっている葉を2つ実験に用います(なるべく大きな葉のほうがいいです)。
2. 一方の葉にはハエ取りペースト(ボンドでもいいかもしれません)で、葉の裏表面を覆います。大抵の植物で気孔は葉の裏側にあるため、これによって蒸散が生じなくなります。この状態の葉の温度を測ります(A)。
3. もうひとつの葉は何もしない(蒸散できる)状態で葉の温度を測ります(B)。
Aでは蒸散が起こらないため、気化熱が発生せず、葉温は高くなり、Bでは蒸散が起こるので葉温は低くなると予想されます。

また、光によって植物はどれだけの熱線を受けているのかを調べるためにアルミホイルで遮光した状態の葉温と遮光してないもので比較してみるのもいいと思います。
さらに、水を与えないと植物は枯れてしまうのを防ぐため、余分な水分の放出を防ぐために気孔を閉じます。したがって、水を与えていない植物の葉は、与えている植物の葉よりも葉温は高くなると予想されます。これも実験によって是非確かめてみてください。

また、温度計で葉温を測っていらっしゃるようですが、なるべく測定部の小さい温度計を用い、葉にできるだけ付着させるようにしたほうがいいと思います。温度計はできるなら棒状のものではなく、ひも状のものの方が使いやすいと思います。また、温度計の測定部はずれないように、葉にセロテープで固定して下さい。

もし、気孔にも興味をもっておられるのなら、マニキュアを葉の(裏)表面にうすくぬって、はがしたものをプレパラートにして顕微鏡でみると気孔がどれだけ開いているかを調べることもできます。

実験がうまく成功する様、お祈りしています。

橋本 美海(九州大学理学府生物科学科植物生理学・博士研究員)
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2006-07-04