一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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暗発芽種子

質問者:   教員   きち
登録番号0847   登録日:2006-07-03
光発芽・暗発芽の生態学的な利点は何でしょうか?
陽生植物である雑草はすべて光発芽なのかと思ったのですが、そうでもないみたいですよね。
種子の大きさとも関係があるのでしょうか?
どのような特性を持つ植物が、暗発芽種子なのか、教えてください。
きち さん

 本コーナーに質問をお寄せ下さりありがとうございました。この質問には、光発芽に関して詳しい東京理科大学・理工学部・応用生物科学科の井上康則先生にお答えいただきました。ご参考にして下さい。


[井上康則先生のご回答]
 ご質問の文面から推測すると、光で発芽率が増加することの利点はご理解なされているようですが、念のため説明させて頂きます。

 ドイツのKinzelの報告によると、ドイツ産野生植物種子の70%は光があると発芽率が増加し、27%は逆に発芽率が減少、3%は光の有無に関係なく発芽するそうです。野生植物の大部分は種子発芽に光が影響しているわけです。光が発芽に影響を与える種子はすべて光発芽性種子ということになります。正の光発芽性種子は、一般的に小型種子に多く見られ、負の光発芽性種子は乾燥地に生える大型の種子に見られます。

 正の光発芽性種子は赤色光で発芽が誘導され、近赤外光あるいは暗黒下で発芽が抑制されます。小型種子は貯蔵物質量が限られているため、地中(暗所)深くから太陽光のある地表へ芽生えを伸ばすことができません。光が当たったと言うことは、種子が地表近くに存在することになりますが、上空に他の植物が繁茂していると、クロロフィルにより赤色光は吸収されてしまい、わずかな緑色光と大量の近赤外光が地表に到達します。よって、近赤外光を受ける条件下では、発芽しても他の植物の陰になり光合成を営めないことになります。一方赤色光が当たったと言うことは、上部に他の植物が存在せず、発芽後直ぐに光合成を営める環境であることになるわけです。ですから、正の光発芽性種子は確実に光合成が営める状況下でのみ発芽しているわけです。

 負の光発芽性種子の発芽はやはり赤色光により抑制されます。乾燥地では、水の確保が生き残りに最も重要になります。地表近く(赤色光が当たる条件)に種子が有った場合、直ぐに乾燥してしまい、生き延びることが困難です。よって、光が当たる条件では発芽せず、1週間ほど暗黒が続くことで発芽してきます。

 雑草の種子が暗所で発芽したとのことですが、上記の様に利点は考えられません。ただ、栽培作物種子とは異なり、野生植物ではオナモミの様に同一植物体中の種子が異なる光発芽性を示すことが知られています。これは、単一条件下でのみ発芽すると、有る地域の同一植物がすべて一斉に発芽し、発芽後生育困難な環境が到来した場合、その地域のその種の植物が絶滅することになります。この様な事態を回避するために、あえてばらつきを残していると解釈されています。雑草種子は暗所で100%発芽したのでしょうか?それから、Grand Rapids種のレタス種子を用いた場合、25℃で吸水開始後3分で光に対する感受性が出てくることが報告されています。ですから、明るい部屋で種子を播いた場合、その時点で光の影響を受けている可能性が有ります。雑草の種子が暗所で発芽するか否かは、一定数の種子をあらかじめ試験管等に小分けしておき、暗所で播種して調べる必要があります。更に、光要求性は温度により変わることも知られています。上記レタス種子も15℃で培養すると暗所で発芽してきます。現在ほとんどの市販のレタス種子は、品種改良の過程で正の光発芽性を喪失していますが、30-35℃で培養すると、光要求性が現れてきます。この現象の生態学的利点に関しては、解釈できていませんが、これらの条件を勘案して調べ直されてはいかがでしょうか。

井上 康則(東京理科大学理工学部応用生物科学科)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2006-07-04
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