一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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さくらんぼの離層

質問者:   会社員   藤野
登録番号0848   登録日:2006-07-03
サクランボの季節を迎えてふと思ったのですが、サクランボの果実には茎が付いています。
普通の果物なら茎から下の果実のみ落下すると思うのですがサクラは茎の上に離層ができるのでしょうか?
しかし、食べてみると果実についている茎と果実は簡単に外れるので離層はやはり果実の上部にあるようにも思えます。
離層が二箇所でできる植物なのでしょうか?
2箇所にできてもサクラにとっては意味がないように感じますが。

よろしければお教えください。
藤野 さん:

サクランボとして食用にしているものはセイヨウミザクラの果実ですね。桜の花をよく観察していただくと分かりますが、枝から出ている0.5〜2 cm程の花茎の先から数本でる花柄(これも長さは色々ですが0.5〜2 cmくらい)の先に花が付いています。桜の仲間では、花柄の付け根と果実の付け根(花柄の先端)の両方に離層ができます。離層は器官脱離(落葉、落果など)のために必要な特別に分化した細胞群からできていて、時期がくると離層内細胞群に変化が起きて細胞と細胞との接着がはがれるために器官脱離が起きます。離層は1カ所とは限らず、たとえばマメ科の多くは複葉ですが、小葉葉身の付け根、小葉葉柄の付け根、複合葉葉柄の付け根などに離層ができます。また、構造的に離層が形成されても必ず脱離が起きるとは限らず、内的、外的条件によって離層が完成しない場合がたくさんあります。
複数箇所に離層ができても「意味がない」と言うのは人間の思いこみですね。長い進化の過程で何らかの意味、しかも種の生存に必要な意味があったと考えるのが現代生物学の考えです。現在の環境条件で意味があるかないかとは別の次元の話です。サクランボは本来果実と花柄との間の離層で脱離を起こす方が種子散布の観点からは有利なものです。鳥獣が食べるとき花柄は邪魔ですからね。ところが人間は勝手な動物で、サクランボを食べる(鳥獣から略奪ですね)ようになるとどういう訳か花柄付きのサクランボを好む性癖を持ってしまっています。食べもしない部分が付いた方の市場価値が高く、本当に食べるサクランボ果実だけになってしまうと市場価値は落ちてしまうのが現実です。そこで育種の過程で花柄と果実との間の離層発達が遅く、花茎と花柄との間の離層発達のよいものを選んで今日の品種がある次第です。同じことはウンシュウミカンやオレンジの「へそ」と呼ばれる緑色の萼についても言えます。離層は萼と果実の間にありますので樹上で十分に熟させると(樹上に長くおくと)この離層で離れるので萼なしのミカンができます。食べもしない萼がとれたミカンやオレンジは市場価値が低いので育種過程でこの離層発達の遅い品種を選んできたため、収穫は萼の枝側の付け根をはさみで切る手作業に頼っています。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-07-06
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