一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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植物のリン欠乏について

質問者:   大学生   神田ゆき
登録番号0895   登録日:2006-07-13
植物がリン欠乏になるとアントシアニン色素ができて葉の裏などが赤くなるのですがそのメカニズムがわかりません。
ぜひ教えてください。
神田ゆき さん:

植物のリン欠乏とアントシアンの生成についてのご質問、もう少し実際の状況を伺ってからそれに対応した回答をと考え、問い合わせをいたしましたがお返事がありませんので、ごく一般的な回答をお送りします。

リン欠乏の典型的な症状として、齢の進んだ部分にアントシアン色素が合成されて緑紫色になったり赤色になり、次第に若い部分にも及ぶことがあげられます。リンは土壌中に多量にありますがそのほとんどは金属イオンや有機物などと複雑な結合をして難溶性となっており植物に利用される易溶性リン酸は少ないものです。特に、酸性土壌、アルミニウムや鉄の多い土壌や火山灰土壌などではリン酸は難溶性リンになりやすいので植物にとってはリン欠乏となる場合があります。リン酸は植物ばかりでなく生物の生命活動に非常に重要な物質でエネルギー代謝、物質代謝やそれらの調節機構のあらゆる局面で不可欠の物質ですので、その欠乏は細胞活動に深刻な影響を与えます。植物では、細胞が老化したり、不利な環境条件におかれたりするとアントシアン色素を合成、蓄積することが多くあります。ワタやマツヨイグサの黄色の花弁は虫などに傷つけられたり、開花後に細胞老化が進んだりすると赤く変色しますが、この赤色色素はアントシアンです。また、紅葉で知られるように非常に多くの植物は、気温が低下し、日長が変化する秋になるとアントシアン合成が始まり赤色に変化します。
このような変化は落葉樹ばかりでなく常緑樹の葉でも起こる、かなり植物に一般的な現象です。どうしてこのような代謝の変化が起こるのかとの疑問には、それぞれの植物に組み込まれた遺伝的形質と言うことになりますが、代謝的には、ほとんどの植物に存在する黄色色素のフラボノール類の1つが還元されてアントシアン類に変化するためです。この還元に関与する還元酵素の遺伝子発現がリン欠乏による生理的老化が引き金となって活性化されるためと考えられます。しかし、植物の環境応答の仕組みは植物種によって異なりますので、すべての植物がリン欠乏や細胞老化でアントシアンを合成するものではありません。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-07-25
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