一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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コチョウランってCAM植物?

質問者:   自営業   アキオ
登録番号0908   登録日:2006-07-18
いつも楽しく拝見し勉強させて頂いています。
初めて質問させて頂きます。

ある植物生理学の本で「コチョウランはCAM植物」とありましたが、それは間違いなのでしょうか?
コチョウランもCAM植物であれば、昼間は気孔を開かず光エネルギーを貯えて、夜間に気孔を開いて二酸化炭素を取り組み、炭酸同化作用を行うと思っていました。
また、CAM植物といわれる植物でも多数の植物と同じように、昼間に気孔を開いて光合成を行う種類があるということなのでしょうか?

登録番号0882の「胡蝶蘭の呼吸」のご回答を拝読し質問させて頂きました。
よろしくお願い申し上げます。
アキオ 様

 JSPPの質問コーナーを注意深く読んでいただき、さらに疑問点を指摘していただきありがとうございます。登録番号0882の回答に、私はコチョウランが雨の多い熱帯地域の森林にその起源をもつことから、CAM植物ではないと推定して回答を書きました。
 しかし、コチョウランの栽培、光合成について長く研究されて来られた、京都大学農学研究科・付属農場の片岡 圭子 博士にお尋ねいたしましたところ、コチョウランはCAM形式で光合成をする植物であり、私の登録番号0882に対する回答が誤りであることがわかりました。
以下、コチョウラン、ラン科植物の光合成について、片岡 博士の解説をご覧頂き、ランの光合成についての理解を深めて下さい。


ラン科は種の数が非常に多く,熱帯から亜寒帯まで分布し,約750属,2万5000種を超えると考えられています.当然,原産地の生育環境に適応してその生態・生理はさまざまです。
さて,ラン科の光合成でのCO2固定様式ですが,ラン科では,大雑把に言って葉が薄いラン(オンシディウム,シンビディウムなど)はC3型のCO2固定をしています。一方、葉の厚いラン(コチョウランやデンドロビウム,バンダなど)はCAM型のCO2固定によって光合成を行っていることが多く,成熟したコチョウランはCAM型の光合成を行っています。すなわち、暗期(夜間)に気孔を開きCO2を吸収してリンゴ酸を合成して葉に貯え、明期(昼間)には気孔を閉じリンゴ酸から発生すCO2を用いてC3型の光合成によってCO2固定を行っています。
おそらく,これはコチョウランが本来、樹木や岩場に生息する着生ランであり、土から水を常に吸収できなかったために、水分不足に対処する手段として、CAM型の光合成を選択したと考えられます.他の科でもアナナス科などで,熱帯雨林原産であるけれども、着生型の生態をもつ種類にCAM型の光合成が見られます。
ただし,CAM型光合成の一般的な特徴として,明期の初め(早朝、午前)には気孔を閉じ,二酸化炭素(CO2)を吸収していませんが,明期の後半(午後)になるとCO2の吸収が始まることがわかっています。この時期をCAM光合成のPhaseⅣといいます.これは、おそらく,夜間に合成され、葉に貯えられていたリンゴ酸が昼間の光合成で消費されて濃度が低下することが引き金になっていると考えられます。従って、CAM型光合成でも明期にCO2吸収が全くないということはありません。また,他のCAM植物でも報告されていることですが,若い個体や若い葉ではC3型の光合成を行い,明期にCO2吸収が見られることがあります。生長・加齢に伴うC3からCAMへの変化については,メセンの仲間などで乾燥が誘導要因になることが報告されています。そのほかにもコチョウランでは明期の温度が低く,暗期の温度と逆転するとCAM型のCO2固定が低下するという報告もあり,環境条件や生育ステージによって光合成のCO2固定経路が変化していることが推測されます。

片岡 圭子(京都大学農学研究科付属農場・植物生産管理学)
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2006-07-21
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