一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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深層根と地上部の関係

質問者:   大学院生   江浅
登録番号0928   登録日:2006-07-28
2度目の質問になります。
考えていて分からなくなったのでご助言を頂ければと思います。

植物の根がストレスにより発育不全になれば地上部の発育も負の影響を受ける、というのは容易に想像できるのですが、土壌深くまで根を張る事が可能な植物が、ポット栽培のようなストレスを伴わない条件下で根の伸長が制御された場合は、単純に地上部への同化産物の転流が高まることで地上部が発育するのでしょうか?
それとも根系の規模縮小に合わせて地上部も小さくなってしまうのでしょうか?
つまり、植物のR/S比はストレスでない条件変化でも大きく変わることが可能でしょうか?

植物の多様さを考えればどちらのケースもありそうですが、本当にそうなら、それらはどのような違い(例えばホルモン作用機構が異なるとか)が生む結果なのか、これまでに言及があるのなら上への回答とあわせて教えていただければなお幸いです。
どうぞ宜しくお願いします。
江浅 さん:

植物の生長において、地上の茎葉部(シュート、苗条)と根系との間には密接な相互関係があります。シュートにおける光合成は植物体形成原材料の製造工程であり、根で吸収されてシュートへ供給される栄養素はシュートの各種代謝活動、植物体形成に不可欠のものです。さらに、シュートで合成された代謝物は根に供給され根の活動を支えています。つまり、シュートは根の活動、生育を、根はシュートの活動、生育を相互に制御していることになります。この相互関係は栄養素と主要代謝物の交換ばかりでなく、ビタミン、植物ホルモンなどの調節物質、最近では機能分子、信号分子としてのタンパク質やRNAなどの交換も関与していることが明らかになりつつあります。
従って通常、シュートの総量、根系の総量との間には一定の関係がありシュートや根系が勝手に異常に発達することはありません。
「考えていて分からなくなった」のは「ポット栽培のようなストレスを伴わない条件下で根の伸長が制御された場合は、単純に地上部への同化産物の転流が高まることで地上部が発育するのでしょうか?」と考えてしまったためではないかと思います。ポット栽培は限られた土壌空間に栽培するので、栽培する植物の最終の大きさとポットの大きさとも関係ありますが、根にとってより多くのストレスがかかる条件です。植物にとっては、たいへん幅の広い刺激がストレスとなります。土壌中の土石をかき分けて根が成長するとき、成長した根がポットの壁に突き当たったとき、たくさんの根が重なり合ったとき、水分が不足したとき、逆に冠水するほどたっぷりと水を与えたとき、などなどいずれも根にとっては大きなストレスになります。このようにポット栽培にはそれなりのストレスがあるため根系の発達は制限され、それに対応してシュートの生育も制限されます。ですから、使用するポットの大きさに応じて地上部の大きさも変わってきます。「根系の規模縮小に合わせて地上部も小さくな ってしまう」ことになります。ストレスに対する応答反応は遺伝子レベル、代謝レベルから生理レベルにまたがり複雑ですが、単純な接触とか雨水に当たることですらストレスとなります。たとえば、シュートの先端を1日に1度、手で何度か軽くなでる(刷毛でこすってもよい)とシュートの成長は抑制されます。シュート/根系の相互作用に関与する信号に関しては登録番号0789の回答を参考にしてください。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-08-02
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