質問者:
会社員
みつはし
登録番号0941
登録日:2006-08-04
変化アサガオを栽培しているのですが、突然、正常な花が咲きました。咲き分け、枝がわり
今回の例は石畳咲きですが、アサガオの株自体が弱っているわけでもなく、花が咲き始めてからしばらくして、突然現れました。その後、幾つかの花が咲きましたが、全て変異体のままです。
石畳咲きの原因遺伝子は同定されていて、形質が元に戻ることがあるということは分かりましたが、不思議でしかたがありません。
変化アサガオの原因のほとんどはトランスポゾンによるものなので、それが関与しているのかと思い、いろいろ調べようと試みましたが、欲しい情報を得られません。
植物には咲き分けや枝がわりといったことがおきるので、それも関係あるのかと思いますが、やはり良く分かりません。
遺伝子レベルでどういった説明ができるのか、また、アサガオに限らず他の植物体ではどう考えられているのか、共通する部分、特異的な部分についても教えていただきたいです。
みつはし さん:
たいへん長らくお待たせしました。アサガオ花色に関するご質問登録番号0941の回答を基礎生物学研究所の星野 敦先生にお願いし、以下のような詳しい解説をいただきました。 アサガオについてはたくさんのHPがあるようですので、あわせてご参考にしてください。
みつはしさま
しばしば石畳は正常花(丸咲)に戻りますが、トランスポゾンなど遺伝的な変化ではなく、生理条件の変化によるものと考えられています。原因遺伝子はクローニングされておらず、丸咲きに戻る仕組みは明らかにされていません。それでも、いくつか仕組みを想像することはできます。正常なmRNAの転写量の低下する変異が遺伝子にあり石畳咲になるが、生理条件の変化により転写量が上昇して、ある閾値を越えると丸咲に戻るといった仮説です。これに似た実例をあげると理解し易いはずですが、すぐに思い出せません。
生理条件により表現型が変化する例は数多くあります。面白い例は、トウモロコシのzebra crossbandsと呼ばれる変異です。成長時の光や温度の違いにより葉に濃淡ができた結果、シマウマの葉が形成されるらしいです。
MaizeGDB: http://www.maizegdb.org/cgi-bin/locusvarimages.cgi?id=12792
一方、アサガオの雀斑、吹掛絞、獅子などはトランスポゾンによる枝変りが出現します。たとえば雀斑は、花色の生合成に必要なDFR遺伝子にトランスポゾンTpn1が挿入した劣性変異です。雀斑変異をホモに持つ細胞では色素合成が起こりませんが、Tpn1の転移が茎頂で起こるとDFR遺伝子の機能が回復(復帰変異)した細胞が生じ、この細胞が細胞分裂を繰り返して枝となれば枝変りとなって有色の花が咲きます。茎頂ではなく発達段階の花の細胞で転移が起これば、復帰変異した細胞群と変異型の細胞群が入り交じったキメラになり、絞り模様や咲き分けとして観察できます。
雀斑のようなトランスポゾンによる遺伝子の発現変化が明らかにされている植物は、トウモロコシ、キンギョソウ、ペチュニア、イネ、ブドウ、バラがあります。アサガオではTpn1類縁のトランスポゾンが非常に活性ですが、これらのトランスポゾンだけが活性な点は、他の植物に比べて特徴的です。これはアサガオ栽培の歴史と関連があると考えています。詳細は少し長くなりますから、私たち、もしくは九州大学の仁田坂先生の総説をお読み下さい。それぞれのHPに論文、総説のリストがあり日本語でも書いております。(仁田坂先生には、石畳の性質について教えて頂きました。)
九大のHP:http://mg.biology.kyushu-u.ac.jp/
星野 敦(基礎生物学研究所)
たいへん長らくお待たせしました。アサガオ花色に関するご質問登録番号0941の回答を基礎生物学研究所の星野 敦先生にお願いし、以下のような詳しい解説をいただきました。 アサガオについてはたくさんのHPがあるようですので、あわせてご参考にしてください。
みつはしさま
しばしば石畳は正常花(丸咲)に戻りますが、トランスポゾンなど遺伝的な変化ではなく、生理条件の変化によるものと考えられています。原因遺伝子はクローニングされておらず、丸咲きに戻る仕組みは明らかにされていません。それでも、いくつか仕組みを想像することはできます。正常なmRNAの転写量の低下する変異が遺伝子にあり石畳咲になるが、生理条件の変化により転写量が上昇して、ある閾値を越えると丸咲に戻るといった仮説です。これに似た実例をあげると理解し易いはずですが、すぐに思い出せません。
生理条件により表現型が変化する例は数多くあります。面白い例は、トウモロコシのzebra crossbandsと呼ばれる変異です。成長時の光や温度の違いにより葉に濃淡ができた結果、シマウマの葉が形成されるらしいです。
MaizeGDB: http://www.maizegdb.org/cgi-bin/locusvarimages.cgi?id=12792
一方、アサガオの雀斑、吹掛絞、獅子などはトランスポゾンによる枝変りが出現します。たとえば雀斑は、花色の生合成に必要なDFR遺伝子にトランスポゾンTpn1が挿入した劣性変異です。雀斑変異をホモに持つ細胞では色素合成が起こりませんが、Tpn1の転移が茎頂で起こるとDFR遺伝子の機能が回復(復帰変異)した細胞が生じ、この細胞が細胞分裂を繰り返して枝となれば枝変りとなって有色の花が咲きます。茎頂ではなく発達段階の花の細胞で転移が起これば、復帰変異した細胞群と変異型の細胞群が入り交じったキメラになり、絞り模様や咲き分けとして観察できます。
雀斑のようなトランスポゾンによる遺伝子の発現変化が明らかにされている植物は、トウモロコシ、キンギョソウ、ペチュニア、イネ、ブドウ、バラがあります。アサガオではTpn1類縁のトランスポゾンが非常に活性ですが、これらのトランスポゾンだけが活性な点は、他の植物に比べて特徴的です。これはアサガオ栽培の歴史と関連があると考えています。詳細は少し長くなりますから、私たち、もしくは九州大学の仁田坂先生の総説をお読み下さい。それぞれのHPに論文、総説のリストがあり日本語でも書いております。(仁田坂先生には、石畳の性質について教えて頂きました。)
九大のHP:http://mg.biology.kyushu-u.ac.jp/
星野 敦(基礎生物学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-08-22
今関 英雅
回答日:2006-08-22