一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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朝顔の色変わり

質問者:   一般   ミモザ4
登録番号0971   登録日:2006-08-13
はじめまして。
長年ことあるごとに文献など調べてみましたが、謎がとけません。
「朝顔の青花が赤い色になる」という例は、酸性雨など「酸性物質」に触れることで発生するということは分かりました。
が、問題にしているのは「赤から青(または青紫)」に変化する、ということです。
小学生の朝顔の観察。この人生初めての観察で起きた珍事が謎のままです。このサイトを見つけたので解決を期待しています。

1:1本のつるから翌日咲くであろう蕾を探す。
2:夕方にその蕾を軽く開いてその色を確認する。 →「赤」を確認
3:翌日開花すると、その花だけが色むらになることもなく「青」で咲く

その後、何度か色々な場所で再実験しても、同様の結果を得ました。
ただし、朝顔の種類として、小学校の朝顔の観察で使われるようなタイプで、葉は3つに尖った部分をもち、花も中心まで色の入ったシンプルなものです。
蕾の段階でも、先端までちゃんと巻いているタイプにしか結果は得られません。蕾の先端がほつれるタイプは色が変化しません。

花の細胞の液胞のPHなどによって色が変わると聞きましたが、人間が触れたぐらいで変化をもたらすものなのでしょうか?
ミモザ4 さん:

アサガオの色変わりについて、二人の専門家からコメントを頂きました。
基礎生物学研究所の星野 敦先生からは、アサガオの花の色を決める遺伝子と花の色についての解説、新潟大学の和田清俊先生からは、おそらくこういうことではないだろうか、というものです。アサガオでは2つの遺伝子が基本的な花の色をつくっていますので、遺伝子の組成で赤く咲く花は、青い花色にはなり得ないことなのです。4色の基本色の写真は次のサイトに掲載されていますのでご覧になってください
http://mg.biology.kyushu-u.ac.jp/mg-files/flowercolor/flower-color.html

青い花も蕾のときは赤く、それが次第に青くなり、開花後少し時間がたつと赤くなりますので、和田清俊先生は、つぼみをいじったことによる開花の遅れと観察時刻の組み合わせでご質問のような可能性があり得ることを指摘しておられます。
ご質問に直接お答えできず申し訳ありませんが、以下のコメントは現在の科学知識で述べうるものですのでご理解ください。


ミモザ4さま

 たいへん興味深く、ご質問を拝見しました。「何もしなければ赤花が咲くアサガオを、開花前日の夕刻に軽くツボミを開くと、そのツボミは翌日に青花となる」ということですね。このような話は初耳で、たしかに珍事です。さっそく栽培していた4種類の赤花のアサガオで試してみましたが、いずれも青くはなりません。とても不思議で謎解きできないので、ここでは赤花と青花のアサガオの違いについて解説いたします。

 野生型のアサガオ(Ipomoea nilまたはPharbitis nil)は、もともと青花を咲かせます。赤、紫、白などのアサガオは、花の色を決める遺伝子に突然変異(塩基配列の変化)を持っているため、青色を作り出せません。問題の赤花アサガオには、Magenta遺伝子と、Purple遺伝子の2つに突然変異があります。Magenta遺伝子は青い色素の合成に必要で、Purple遺伝子は色素が蓄積する液胞のpHを上昇させる(アルカリ化させる)働きがあります。この2つの遺伝子の組合せで、次のような4種類の基本色が作られます。
花色 遺伝子組成
青 Magenta、Purple 
紫 Magenta、purple 
暗紅 magenta、Purple 
赤 magenta、purple 
(Magenta、Purpleは野生型で働きます。magenta、purpleは変異型で働きません。)
 このように赤花と青花のアサガオには、遺伝子に違いがあるのです。「開花前日に軽くツボミを開く」ことで、2つの遺伝子から突然変異が解消されて野生型に戻ることはありませんから、ミモザ4さまが観察された珍事はうまく説明できません。「種子への遺伝」も問い合わせて頂きましたが、遺伝子が野生型に戻らないことには、青花に変化した性質も遺伝しません。
 なお、Purple遺伝子(野生型)は開花の前日から働き始め、夜中の間に液胞のpHを上昇させます。ツボミも咲いた花も同じ色素が液胞に蓄積していますが、この色素(アントシアニン)はpHが低いツボミでは赤く、pHが高い花では青く発色します。ですから「青花のアサガオもツボミは赤い」のです。この液胞pHの上昇には時間がかかりますので、赤から紫色、青色と徐々に変化する様子を徹夜で頑張れば観察することができます。このように、ご質問にあった「赤から青(または青紫)」への変化は、アサガオが本来持っているPurple遺伝子の性質によるもので珍事ではありません。上述のように、MagentaやPurple遺伝子が働かない赤花アサガオを青花に変化させたとなると、とても不思議なことですが。
 いずれにしても、とても面白い観察です。また再現することができましたら青花と赤花が咲き分けている様子を、ぜひ写真でも構いませんので拝見させて下さい。

星野 敦(基礎生物学研究所)

このような話は私は聞いたことが無く、確かなことを答えることが出来ません。「小学生のときの観察」が発端のようですから、何かの勘違いということがありそうですが、「その後、何度か色々な場所で再実験しても、同様の結果を得ました」ということと、品種に依存することを確認していることから、事実のように思われます。
事実とすれば、液胞のpH変化による花色変化が一番考えやすいかと思います。「色むらになることもなく」青くなるということから、接触による部分的な影響ではないようなので、花全体に影響が及ぶこととして考えられるのは、「夕方に蕾を軽く開く」ことが開花時刻を早めるか、遅らせることがあるかもしれないということです。
ソライロアサガオのヘブンリーブルーでは、蕾のとき赤く、開花時には青、開花後時間を経ると再び赤くなるので、仮に翌日の観察時刻が遅ければ、「蕾を軽く開くことで開花時刻が遅れた」花がまだ青いうちに、他の花はすでに赤く変化してしまったところを見た、ということがあるかもしれません。青から赤への変化はヘブンリーブルーで顕著ですが、他のアサガオでも見られます。

和田清俊/ペン・ネーム竹能清俊(新潟大学理学部生物学科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-08-21