一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

学術誌PCP

Plant & Cell Physiology

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2026 vol67 (8)

PCP  cover

植物から単離されるジベンジルブチロラクトンリグナン(DBL)は通常左旋性であるが、様々な薬用植物や観賞用植物を含むジンチョウゲ科の植物から単離されたDBLは特徴的に右旋性である。しかし、この右旋性DBLの生成における立体化学制御機構は従来全く不明であった。本号において、 TutihashiらはDBL生成に関わる二つの酵素—ピノレジノール/ラリシレジノールレダクターゼとセコイソラリシレジノールデヒドロゲナーゼ—の基質のエナンチオマーに関する選択性が、ジンチョウゲ科植物のフジモドキ(Daphne genkwa)における右旋性DBL生成の決定要因であることを見出した。

表紙画像は、フジモドキ(Daphne genkwa)の花。
写真提供: 梅澤 俊明 博士(京都大学 生存圏研究所)

Research Highlight: 第1著者

ゼニゴケにおける発芽と無性芽休眠の協調的制御
休眠は、植物が不利な環境を生き抜くために重要だが、コケ植物のクローン繁殖体(無性芽)におけるその制御機構は十分に明らかになっていない。芳村、加藤らは、ゼニゴケにおいて、bHLH型転写因子のMpHYPNOSが無性芽休眠の中心的な制御因子であることを明らかにした。MpHYPNOSは、ABA非依存的に細胞周期を抑制することで発芽を抑える一方、ABA依存的に乾燥耐性を高めることを示した。この二重の制御機構は、陸上環境への適応として休眠がどのように進化してきたのかを理解する手がかりとなる。
芳村 那美 image

芳村 那美

芳村那美は博士課程の学生で、植物の休眠を制御する分子メカニズム、起源、および進化に関心を持っている。ゼニゴケを実験モデルとして用い、栄養繁殖器官の休眠に関する研究を行ってきた。特に、植物の陸上環境への適応と関連して、休眠を制御するメカニズムがいかに進化したのかという点に興味をもって研究を進めてきた。研究以外の時間には、音楽鑑賞やスポーツ観戦を楽しんでいる。
ゼニゴケにおける発芽と無性芽休眠の協調的制御
休眠は、植物が不利な環境を生き抜くために重要だが、コケ植物のクローン繁殖体(無性芽)におけるその制御機構は十分に明らかになっていない。芳村、加藤らは、ゼニゴケにおいて、bHLH型転写因子のMpHYPNOSが無性芽休眠の中心的な制御因子であることを明らかにした。MpHYPNOSは、ABA非依存的に細胞周期を抑制することで発芽を抑える一方、ABA依存的に乾燥耐性を高めることを示した。この二重の制御機構は、陸上環境への適応として休眠がどのように進化してきたのかを理解する手がかりとなる。
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加藤 大貴

加藤大貴 准教授は、愛媛大学の理工学研究科において、植物の発生と進化に関する研究に取り組んでいる。過去にはEMBO Long-term Fellowshipに採択されオランダのWageningen大学で研究に従事した。主にゼニゴケを実験モデルとして用い、オーキシン信号伝達の起源と進化について、分子遺伝学・情報生物学・生化学的手法を組み合わせて研究を進めてきた。現在もゼニゴケの発生制御に関する研究を継続しつつ、陸上植物全体における発生制御機構の進化を明らかにするため、非モデル植物であるシダ植物スギナにも研究対象を広げている。
Social media handle:

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Bluesky: @hirotakakato.bsky.social

ゼニゴケの発生を制御するメチル基転移酵素
メチル化は、多くの植物ホルモンや二次代謝産物における一般的な酵素修飾である。京都大学の川村昇吾らは、SABATHファミリーに属するメチル基転移酵素がジベレリン関連化合物と協調してゼニゴケの成長および有性生殖を制御していることを明らかにした。この酵素をコードする遺伝子が苔類独自の起源を持つことは、陸上植物の進化過程において、SABATHファミリーのメチル基転移酵素が形態形成や発生を制御するために繰り返し利用されてきたことを示している。
※本号に掲載されている久永哲也による解説論文もあわせてご参照ください。
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川村 昇吾

専門は植物分子生物学およびバイオインフォマティクス。日本学術振興会(JSPS)特別研究員を経て、2023年に京都大学にて博士号を取得。主な研究実績として、ゼニゴケのゲノムデータベースMarpolBaseおよび発現データベースMarpolBase Expression (MBEX)の開発や、ゼニゴケにおけるジベレリン関連経路の解明などがある。また、遠赤色光応答や深層学習を用いた表現型解析に関する研究にも貢献している。現在は株式会社Preferred Networksの研究員・エンジニアとして、機械学習を活用しながらゼニゴケの研究も継続している。趣味は囲碁、ボードゲーム、そしてお酒を楽しむこと。
コケ植物ゼニゴケの油体への特殊代謝産物蓄積に関わるABCG輸送体
苔類は「油体」と呼ばれる独自のオルガネラをもち、そこには化学防御に関わるさまざまな特殊代謝産物が蓄積する。しかし、これらの化合物がどのような仕組みで油体に蓄積されるのかは不明であった。金澤らは、ゼニゴケの油体膜に局在するABCトランスポーターMpABCG1とMpABCG36を解析し、両者がセスキテルペンの蓄積に重複して関与する一方、MpABCG1はマルカンチン類の蓄積にも主要な役割を果たすことを明らかにした。さらに、これらの遺伝子を欠損させても油体自体の形成は大きく損なわれなかったことから、MpABCG1とMpABCG36は油体形成そのものではなく、特殊代謝産物の蓄積に重要であると考えられる。本研究は、苔類の油体に生理活性をもつ特殊代謝産物を隔離・蓄積するためにはたらく分子装置を同定し、その分子機構の一端を明らかにしたものである。
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金澤 建彦

金澤建彦は、基礎生物学研究所・細胞動態研究部門の助教として、植物細胞における膜交通とオルガネラ形成の研究に取り組んでいる。2017年に東京大学大学院理学系研究科で博士号を取得し、その後、基礎生物学研究所で研究を続けている。現在は、ゼニゴケをモデル植物として、進化的に保存された膜交通システムがどのように利用され、油体のような系統特異的オルガネラの形成や機能の獲得につながったのかを明らかにすることを目指している。特に、植物細胞の膜交通、オルガネラ形成、特殊代謝産物の蓄積機構とその進化に関心をもっている。シュライデンとシュワンによって細胞説が提唱された19世紀前半は、ショパンやリストが活躍した時代でもあり、その時代に思いを馳せながらピアノを楽しんでいる。
uORF制御を受けるmRNAの翻訳におけるtRNA硫黄修飾の役割
サーモスペルミンは、植物で保存されたuORFを含む特定のmRNAの翻訳を調節することにより、維管束木部の形成を抑制することが知られている。西井らは、サーモスペルミンを欠損したシロイヌナズナの矮性変異を抑圧する新奇サプレッサー変異体を同定し、tRNAのwobble 位ウリジン修飾におけるmcm5s2Uの合成に重要な硫黄転移酵素をコードするCTU2 の機能欠損変異体であることを突き止めた。さらなる遺伝学的解析から、このtRNA修飾が、木部分化に関わる主要制御因子のuORFを介した翻訳調節において重要な役割を果たしていることが示唆された。
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西井 裕一

西井裕一氏は、サーモスペルミンが制御する植物の木部分化の仕組みを分子遺伝学的手法を用いて研究し、岡山大学大学院環境生命自然科学研究科で博士号を取得した。卒業後は、科学捜査研究所に入所し、生物学的知識を活かして犯罪捜査を支援している。将来的には、植物科学の研究経験を生かし、forensic botany(法植物学)の分野で、画期的な解析手法の確立を目指している。